犬の本:『マールのドア』
最初にひとつ言わせてください――この本は傑作です。
著者の鋭く深い観察眼と膨大な量の資料に裏打ちされた、ノンフィクションとしての魅力に溢れています。
全米でベストセラーになったというのもむべなるかな。
大自然を満喫して生きる一頭の犬マールとその飼い主である著者の珠玉の日々が、まるで大山脈で見るダイヤモンドダストのようにきらめいています。なかでも著者とマールの「会話」は絶品です。
先日、ブクログに短い感想を書きました。
ブクログユーザーのなかには、この本を読んで感想を書いた人はほかにいません。
なんともったいない。
犬、自然、ナチュラリスト、犬との絆……これらのキーワードに反応したくなる人はぜひぜひ読むべきです。
実を言うと邦訳刊行前に原書を読みかけていましたが、冒頭数十ページを読んだところで仕事に忙殺され、読みさしのままでした。そのうちに訳書が出ていることに気づき、あらためて日本語版で読んで、もっと早く読めばよかったと悔やんだほどです。
米国のみならず日本でもベストセラーになり、映画化もされた『マーリー―世界一おバカな犬が教えてくれたこと』 (ハヤカワ文庫NF)という、これまたすばらしい本がありましたが、ある意味、『マール』は『マーリー』より強くおすすめしたい本です。
***ブクログに載せた感想***
「あんたは犬を欲しがってる。それはボクだ。」――神秘的にすら思える出会いから始まった人と犬の種を超えた絆が紡いだ物語である。たんなる犬本でもなければ、メモワールでも、ネイチャー・ライティングでもない。そのすべての要素を融合させ、この本独自の世界を繰り広げているといっていい。
人と暮らしながらも束縛を嫌い、大自然のなかでの自由を謳歌するマールのために、著者は自宅に犬用ドアを取りつけた。それはマール自身が人間社会と大自然のあいだを行き来するための扉であり、著者にとってもそんなマールの五感を通じて外の世界を疑似体験する扉であった。
犬はペットではなくコンパニオン・アニマルだという議論がある。犬の飼い主のひとりとしてその意見に異論はないが、敢えて口を挟むなら、犬はただひたすらに犬であり、飼い主にとってはポチであり、ハナコであり、ジョンやリリーである。そして、本書の著者にとってはマールはマールであり、共に過ごした日々の相棒である。それ以上でもそれ以下でもない。
数多く出版される犬本のなかでも、特筆すべき名著だと思う。ぜひ多くの人に読んでもらいたい。そして著者が記したマールの声に耳を傾けてほしい。
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