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2012.10.08

一枚の皿

 洗いものをしているとき、ふと思いだす笑顔があります。

 かれこれ20年近く前、古くから家族ぐるみのおつきあいをしていたある家のおばさまから、お気に入りの窯元で見つけてきたという皿とマグカップをいただきました。マグカップはその後何度も引っ越しをするうちに割ってしまったのですが、皿はいまだに使い続けています。

 長さ30cmほどの葉っぱのかたち。渋みのある青が白身魚を引き立てるので、刺身やカルパッチョを食べるときに出番の多い皿です。厚みがあって大きさのわりにずっしりと重く、洗ってしっかり乾かしたあとは両手で支えるように持ちながら食器棚の下段にしまいます。

「なおみちゃんにもらってほしくて」

 実家を出て働いていたわたしがたまたま帰省していると知ったおばさまが、わたしの実家とは川を挟んで反対側にあるお家からわざわざ車をとばして届けにきてくれました。それは、もうすぐ新しい生活を始めるわたしへの贈りものでした。

 こちらも短い帰省でしたし、おばさまも忙しいなか時間を割いて来てくれたようでわたしの実家にもあがらずじまい。お礼の言葉もあわただしく、最後に何を話したのかも覚えていません。ただあのときのおばさまの笑顔、色白で優しいまなざしのあのお顔だけが記憶に残っています。そして、青い皿を手に取るたびに思いだすのです。

 年齢を重ねるにつれて忘れてしまうことは多いけれど、過ぎ去りし時間に挟まれながらも、いつでも手に取れる、どこにあるかわかっている本のような記憶も数多く思い出の棚に並んでいます。あのとき肩越しに振り返りながら帰っていったおばさまの姿は、そんないつでも蘇る遠い記憶のひとつです。

 それから数年して、ある日突然おばさまとのお別れがやってきました。青い皿と優しい笑顔を遺して。
 おばさまからいまのわたしが見えているだろうか。それともご自分のお子さんやお孫さんを見守るのに忙しくしているだろうか――そんなことを考えた休日の午後でした。
 
 
 
 
 

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