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2004.12.22

犬の本

『コマのおかあさん』(鷺沢萠)読了。

 みすぼらしい雑種の捨て犬を自宅に引き取った日、私は「おかあさん」になった。だが、コマと名づけた愛犬が大人しかったのはその日だけ。(文庫カバーより)

 わたしは鷺沢萠という作家の熱心な読者ではなかったけれど、歳が近かったこともあり、端正な顔立ちと早熟な才能に恵まれた彼女をどこかまぶしく感じていました。
 このエッセイは、韓国語で「小さい」とか「チビ」を意味する愛犬コマに温かな愛情を注いだ日々の記録です。哀れなほどみすぼらしかったコマはその名に似合わないほど大きく、ちょっと目を離すとどうやってかカップうどんの乾麺をほじりだして食べたり、野良猫に鼻面をひっかかれて流血事件になったり、日々「おかあさん」をトホホな気分にさせてくれます。

 散歩中、「おかあさん」がコマをちょっと店先の電信柱につなげて買いものをしようと思っても、そうは問屋が卸しません。コマはこの世の末かのようなすさまじい声で泣き叫ぶ(鳴き、ではなく)のです。

 そんな困った愛犬に宛てて、「おかあさん」はエッセイのなかで〈コマへの手紙〉を書いています。

 最後にね。
 おかあさんはあんたにめぐり会うことができて、ほんとうに良かったと思っているよ。こんなふうにあったかい気持ちを思い出させてくれてどうもありがとう。
 今も「あがっちゃいけない」ベッドの上ですやすや眠っているコマへ。
                              おかあさんより

 これほどまでに愛していたコマが推定年齢10歳ないし11歳だった2001年12月、まったく老けない愛犬に宛てて、再びエッセイ文庫版のあとがきに「おかあさん」はこう書きました。

 心の中では「アタシより先に死んでくれるなよ……」などと、もっと理不尽なことを願っているという事実は内緒である。

 そして、2004年4月、作家・鷺沢萠は亡くなりました。「おかあさん」を失ったコマは何を感じていたのでしょう。「おかあさん」のお姉さんの家で元気に暮らしているのでしょうか。犬がからむとどうも感傷的になるわたしも、貴女と同じ「ウスラいい人」かもしれませんね、鷺沢さん。

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