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2004.07.07

おかあさんのばか

   神様に聞いてほしいことがいっぱいある。
   神様に力になってもらいたいこともある。
   教会へ行くと
   私はおかあさんにあえるような気がする。
           (「教会の神様」より)

 書店で文芸書の新刊をチェックしていて、ふと振り返ったときに目に入ったのが『おかあさんのばか』という写真集でした。被写体は1960年代に脳出血で母をなくした小学校6年生の少女、幸ちゃん。撮影したのは当時32歳、三島由紀夫の写真集に取り組み、映画《東京オリンピック》の部門監督も務めた写真家、細江英公氏です。この写真集には、40年前に細江氏が撮った写真に少女が書いた詩が添えられています。

 教員の父と、兄、自分の3人家族になってしまったあと、少女は母のいない淋しさや一家の唯一の女手としての決意をノートいっぱいの詩に書きためました。亡き母の思い出に心をかき乱されながらも、父を想い、兄を想ういじらしい姿。時代を感じさせる白黒写真のなかで、どこか遠くを見つめている目。そのまなざしと余計な装飾のない素直なことばからは、彼女のまっすぐな心が伝わってきます。

 かれこれ10年ほど前、わたしはある放送局で生活情報番組を担当していました。出勤したら全国紙と地元紙、各スポーツ紙にざっと目を通すのが毎朝の日課でした。

 ある日、もと小学校教諭という70代半ばの男性の投書が目にとまりました。かつて炭坑の町の小学校に勤務していたとき、男性は貧しさのなかで精いっぱい生きている子どもたちのはけ口のひとつとして、作文教育に力を入れていました。折に触れて子どもたちに作文をかかせ、毎日の暮らしや自分の思いを綴らせる――投書は、小学校卒業から数十年が経ち、クラス会を開くことになったので、教え子たちにこれまでの人生や近況について作文を書いてもらい、昔を思い出しながら久々に文集をつくった、という内容でした。

 この男性に会いたくなり、さっそく取材をはじめました。大切に保存されていた数十年前の子どもたちの文集も読ませていただきました。必ずしも上手い文章ばかりではありません。けれども、幸ちゃんと同じように飾らないことばで、貧しく厳しい日々の暮らしの喜怒哀楽が書かれていました。坑夫を父に持つある子は、父の留守中に自宅に借金とりが来たときの不安を実にストレートに表現していました。ある子は危険な仕事についている父を心配する気持ちを実にこまやかに綴っていました。

 あのとき以来、わたしは見かけをつくろうメッキのないことばの力に魅せられています。そして、今回出会った『おかあさんのばか』のおかげで、家族の絆や日々の営みに思いを馳せる機会を得ました。

   だけど 私は女だ。
   おかあさんのかわりに
   うちの中を
   明るくしなくちゃと思う。
   みゆきが けっこんするまでは
   おとうさん 生きていてね。
   みゆきは がんばるから。
           (「みゆきはがんばる」より)

 妻亡きあと男手ひとつで苦労している父の姿を、幼い娘はしっかり観察しています。大人になるとどうしても濁ってきてしまうけれど、幸ちゃんのようなまっすぐな目と心を持ち続けたいものだと思いました。

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Comments

RONさん、ご訪問ありがとうございます。

「おかあさんのばか」は歌になっているんですね。知りませんでした。

「おかあさんのばか」のような子どもの真っ直ぐな言葉には、ときどきガツンと殴られた気分になります。
こんな表現、わたしにはできないなとほんとうに感心します。
人の心にストレートに伝わる言葉を持つ子らが羨ましく、大人もがんばらなければと思っています。

Posted by: 片山 | 2008.08.27 at 11:29

「おかあさんのバカ」を検索して、発見しました。
大学1年の時、名古屋学院大学グリークラブで、50余名で、「おかあさんのバカ」を合唱した経験があります。昭和50年だったか?

Posted by: RON | 2008.08.26 at 17:31

逃げ水さん、いらっしゃいませ。
トラックバックもありがとうございました。今住んでいる札幌で写真展があれば、わたしも行きたいです……と思って版元の窓社サイトを見たら、小樽で終わったばかりでした。ああっ、小樽なら行けたのにぃ。残念。
逃げ水さんのブログも拝見しました。
Swarovskiが××円とはお買い得! 仲の良いすてきなご家族を思い浮かべ、わたしまでほんわかした気分になりました。また寄らせていただきます。

Posted by: 片山 | 2004.11.10 at 12:32

はじめまして。「おかあさんのばか」を検索していて
辿り着きました。またあらためて訪問させていただきます。

Posted by: 逃げ水 | 2004.11.10 at 10:09

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Tracked on 2004.11.10 at 10:06

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