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2004.06.08

伝える

 ことばはときに暴力にもなるけれど、心の奥底を揺さぶる力を発揮することもあります。今日読んだ一通の手紙――父から亡き娘に宛てられたそれには、後者の力が満ちあふれていました。

 おそらくは、長いあいだ他人や自分が書いた文章と向きあって暮らしてきた人が書いた手紙です。うがった見方をすると、文章の演出はお手のもの、ことばの力をコントロールするのは朝飯前でしょう。日常のなんでもない父娘のやりとり。遠い昔の思い出。最後に見た娘の姿。最後にきいた娘の声。しかし書き手は、そんなことを見ず知らずの読み手に切々と語りたかったわけではないかもしれません。ただ、もう一度娘に会いたい、時計の針をあの最後の朝に戻したいという気持ちがあの手紙を書かせただけなのかもしれません。そして、書き手の思いは書き慣れた文章の巧みさを超越した力を放ち、今日、日本全国の数えきれないほど大勢の人々の心に届いたはずです。

「伝えかたの上手い下手の問題じゃないんだ。何を伝えたいのか、誰に伝えたいのか。その思いが大切なんだよ」

 もう10年以上も前、わたしにそんなふうにいってくれた人がいました。折に触れて思い出すことばです。このことばがいつになく胸にしみた一日でした。

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